細道no16

５月１０日（土）

郡山へ

　４：００　起床。
　６：００　出発。
　８：３０　JR磐城守山駅で朝食。曾良の随行日記によると、乙字ヶ滝を是非見るようにと勧めた須賀川の等雲の紹介状で、守山宿の問屋善兵衛方で格別な接待を受けた。善兵衛の案内で大元明王（田村神社）へ行き、ここに保存されていた数々の宝物（人麻呂や定家、業平等の歌仙絵、探幽の描いた大元明王の絵等）を見せてもらった。また等躬が用意してくれた馬を乗り替えて善兵衛が別な馬を用立ててくれ郡山へと向かった。
　９：３０　田村神社。芭蕉が見た社宝の一部は散逸したが、いまでも多くの重要文化財が保管されている他、社殿自体も市の重要文化財。
１１：３０　郡山駅前。黒羽で旅館に荷物を預けて町中や雲巌寺に出かけたとき、必要な物だけナップザックに入れて持ち歩いていたが、中に入れていたスポーツドリンクのキャップが緩んで液が漏れ、携帯電話を濡らしてしまった。以来調子が悪くて充電してもすぐ放電してしまう。使うときはコンセントのある所を借りて騙しだまし使っていたが、埒が明かないので郡山駅前のヨドバシカメラで買い換えることにした。切り替え手続きなどで１時間ほどかかった。
　芭蕉達は郡山で泊まったが、曾良の日記によると、「宿ムサカリシ」とある。今まで黒羽や須賀川、あるいはそこで紹介状をもらった居心地の良い所で泊まっていたので余計にそう感じたのだろう。この先もしばらく宿には難儀をする。

JR小塩江駅で。丁度列車が到着した		田村神社本殿
延宝８年（１６８０）に天領としての検地が完了したことの奉謝として幕府が建てた燈籠。芭蕉が寄ったときもあったはず		数々の文化財を示す標柱と説明板
郡山市は県下一の人口と位置的に県の中央にあることから福島県成立当時から福島市と県庁所在地を争ってきた		冨久山の小学校では運動会の真っ最中

安積山公園

１４：３０　日和田安積山公園。この辺りは芭蕉が「かつみ刈るころもやゝ近うなれば、いづれの草を花かつみとは云ぞと、人々に尋ね侍れども、更に知人なし。沼を尋ね、人にとひ、かつみかつみと尋」ね歩いた所。芭蕉がどうしてこの花に拘ったかというと、能因法師の「はなかつみ生ひたるみればみちのくのあさかの沼のこゝちこそすれ」や古今和歌集詠み人しらずの恋の歌、「みちのくのあさかのぬまの花かつみかつ見る人に恋やわたらん」などにより古くから知られており、また、平安中期の歌人、藤原実方(藤中将)が陸奥に下向したときに、端午の節句で軒にさす菖蒲がこの地域で生育していないことを知り、それなら代わりに安積沼の「かつみ」で代用するように命じたという故事を知っていたからであろう。
　藤中将こと藤原実方という人は、「かくとだにえやはいぶきのさしも草　さしも知らじな燃ゆる思ひを」で百人一首にも名を残し清少納言とも交際があった風流人だが一方で人間くさい逸話も残し、東北とは縁の深い人である。宮中で、かねがね不仲であった藤原行成と歌のことで争い、いきなり笏で行成の冠を叩き落とし、これを見ていた一条天皇から「歌枕見て参れ」と陸奥の守に左遷された。また赴任して数年後、馬に乗って笠島の道祖神の前を通ろうとしたとき、土地の人が「この神は願ったことを叶えてくれ、賞罰をはっきりつけてくださる神です。下馬し、再拝してお通りください」と諫めたが、その謂われを聞いた上で「それなら下馬して再拝するに及ばず」と言って、馬を打って通りすぎたので明神が怒り、馬が暴れて落馬し、それがもとで命を落としたという逸話が残っている。後に西行が実方の墓を訪れ、詞書きと歌を残した。「朽もせぬ其名ばかりをとゞめをきてかれのゝ薄かたみにぞみる」
　芭蕉は、かつみの花も見つけられず、この実方と西行の旧跡を見たいと思っていたのだが、生憎の雨に日も暮れてきたので、「笠嶋はいづこさ月のぬかり道」の句を詠み、涙をのんで名取の里を後にした。

東北線跨線橋の花かつみ橋		安積山公園
安積山公園は枝振りの良い松が多い		ツツジも丁度見頃
「花かつみ」はどの花か今もはっきりしないが地元郡山市では姫シャガがそうであろうと市の花に制定した。能因法師の歌の詞書きから真菰という説もある		これが「花かつみ」こと姫シャガ。丁度花の時季で良かった。地元の小学生が毎年卒業記念に植えて増やしている
「おくのほそ道」かつみを尋ね歩く条の碑		万葉集「安積山影さへ見ゆる山の井の浅き心を吾思はなくに」の歌碑。いかにも万葉集らしいいい歌。この歌は百人一首競技カルタの時、空詠みにも使われる「難波津に咲くやこの花冬ごもり今を春べと咲くやこの花」と共に紀貫之が古今集仮名序で「この二歌は、歌の父母のやうにてぞ、手習ふ人のはじめにもしける」と書いたことでも知られる